「鮭の遡上する川」(かまどメール立春号への寄稿から)
突然の寒波到来で日本列島が一瞬にして凍てついた感じがしますがお元気でお過ごしですか。寒い夜には少し暖めた純米酒を頂きながら静かな夜を過ごすのも悪くないと思うのですがみなさんはどのように冬を過ごしていますか?
先日まで東北岩手大槌町に行っていました。昨年夏に会った人たちに写真を渡しがてら元気にしてるかなあ、そんなことを確認させてもらうことが大きな目的でした。今回はその大槌町で出会った鮭を通して感じたことを書かせてもらいます。(以下寄稿原稿)
今日はふるさとに還ってくる魚、「鮭」の話をしたいと思います。
「鮭の遡上する川」
鮭が干してある。ここは岩手県大槌町、大槌川支流にある人工鮭鱒孵化場。「鮭が干してあるところを見せて下さい」と声をかける。「鮭は珍しいのか?」三重県では鮭は干していないし、獲れない、と説明をする。今干してあるものは4キログラムだけど、大きいものだと水揚げ時には10キログラムはあるよ、と東北訛りで教えてくれたのは孵化場の従業員さん。
ここに干してあるのは4年前放流された稚魚たちが、川を上って昨年末帰ってきた。そんなことを教えてくれる。鮭は「はなまがり」と呼ばれるくらい鼻が曲がった状態で干されていた。災害もあったけどそういうことには関係なく鮭は登ってくるな。そんな話を聞かせてくれた。川が還ってくる場所なのだ。
昨年はいろいろあったけれどいつものように遡上する鮭。鮭はふるさとを出て行きそしてふるさとに還ってくる。川を登る。自然のサイクルはいつものように続いていることを感じる。
日本は自然と上手くお付き合いしながら生きてきたことが容易に想像できる。
通常の漁は年末だが2月に獲れる鮭もあるらしい。脂がのっておいしいとのこと。12月に仮設店舗で営業を始めた居酒屋の主人がそう話してくれた。いつかその脂ののった大槌川を遡上してくる鮭を食してみたい、と心の底から思った。
帰路岩手の山に向かう道を川伝いに走った。蛇行する川を眺めながら、ぽつりぽつりと存在する集落を見る。
魚がそこに住んでいることを想像することは誰にでも出来るだろう。そこに川と共に暮らしがあったことも。
いつの頃からこんなにも自然という存在とかけ離れた生活をするようになったのだろう。
ふるさとを流れる水、水はどうあるべきか 海の水はどうか、そんなことをどうしたら良いか、川を溯る鮭の気持ちになることも必要だと思う。
昨年の震災では沢山の人や住居、思い出、ふるさとを飲み込んだ水。恐ろしい存在であるのも間違いないが、その水も還るべきふるさとの存在の証なのだ、と気づかせてくれた今回の訪問でした。
※今回の文章は「120204かまどメール立春号」に私が寄稿したものを転載して写真を添えました。
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